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神戸地方裁判所伊丹支部 昭和61年(ワ)233号 判決

兵庫県川西市久代二丁目四番一三号

原告

金菊仙

右訴訟代理人弁護士

宮崎定邦

前田修

古殿宣敬

高橋敬

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

前田勲男

右指定代理人

野中百合子

赤松泰雄

奥村晴夫

松野英親

白木修三

塔村芳道

田頭啓介

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対して金一〇〇万円及びこれに対する昭和五九年五月二四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  大阪国税局収税官吏小山和男(以下「小山」という)は、株式会社富士砕石(以下「訴外会社」という)に対する法人税法違反嫌疑事件について、昭和五九年五月二一日付けで大阪地方裁判所裁判官川久保政徳の発布した「臨検、捜索、差押、許可状」(以下「本件許可状」という)に基づき、同付二三日原告を被差押者として兵庫県川西市久代二丁目七九番地の一所在のパチンコ店サンエイセンター(以下「サンエイセンター」という)において別紙物件目録記載の各物件に対して差押をなした(以下「本件処分」または「本件強制調査」ともいう)。

2  訴外会社は、砕石業を営む会社であり、原告の夫崔種楽の父崔性植が代表取締役である。

二  原告の主張

1  本件処分の違法性

(一) 手続きの違法性

(1) 差押許可状の不呈示

小山らは、昭和五九年五月二三日午前九時三〇分頃サンエイセンターにおいて、原告に対して差押許可状を呈示することなく、捜索差押をした。

(2) 立会人の不存在

小山らは、サンエイセンターの実質的経営者であり、本件許可状の名宛人である原告が捜査差押の現場に居合わせ、立会を求めたにもかかわらず、立ち会わせないばかりか、他の立会人をも立ち会わせることなく、しかも、差押物の確認すらさせずに捜索差押をした。

(二) 本件処分の実質的違法性

(1) 任意調査の欠如

本件は、事前に何らの任意調査をすることなく、合理的な根拠や必要性がないのに強制調査をなしたものであるから、違法である。

すなわち、国税犯則取締法(以下「国犯法」という)は、任意調査を原則とし、強制調査を補完的なものとしている。しかるに、原告は、一度も事情聴取や書類提示を求められたことはないのに、いきなり本件処分を受けた。被告は、原告の基本的人権に対して配慮することなく、合理的な根拠や必要性がないにもかかわらず、強制調査を断行したものである。

(2) 原告と訴外会社の法人税法違反の嫌疑事実(以下「本件嫌疑事実」という)との関連性

本件許可状は、犯則嫌疑者を訴外会社とし、サンエイセンターの店舗や事務所において、同者の昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度における法人税法違反の嫌疑事実を証明するに足りると認められる物件における臨検、捜索、差押を許可した内容のものである。そうすると、関連性のある物件は、訴外会社の書類及び訴外会社の営業その他の諸活動に関係する書類に限定されることは明らかである。

しかるに、被告は、訴外会社が昭和五七年七月頃殆ど営業活動を停止して原告と何らの取引もないにもかかわらず、原告と取引が存在するとしたうえ、取引に関連する書類等を差押えるのではなく、原告(サンエイセンター)自体の損益や財産の増減を把握するための物件を差押えている。これは、とりもなおさず、訴外会社の本件嫌疑事実の調査を口実に、探索的に原告の所得調査を行うために、本来強制調査をする余地のない原告に対して強制調査に及んだ別件調査である。

したがって、原告は、訴外会社の本件嫌疑事実に関連性がなく、検索差押を受けるといわれはない。本件処分は、原告の夫が在日朝鮮人総連合会の長年にわたる中心的活動家であるがゆえの極めて悪質な政治的弾圧事件である。

(3) 被差押物件の関連性の不存在

本件処分当時、サンエイセンターの日常の営業資金に訴外会社の資金が流入した嫌疑は存在しなかったのであり、その当時存在したのは、株式会社長谷川工務店からの取得金がサンエイセンターの敷地、建物の購入資金に充当されたという嫌疑であるから、本件で差押が許容されるのは、右購入に係る事実と関連性がある物件に限られる。しかるに、小山らは、次のような訴外会社の本件嫌疑事実とは全く無関係な原告の日々のパチンコ店経営に不可欠な帳簿類(〈1〉)や第三者の所有物であり、嫌疑事実と関連性がないことが明らかな物件(〈2〉)を差押えした。

(別紙物件目録記載の差押番号による。)

〈1〉 一〇、一一、二四、二六、二八、三九、四九、五〇、五三、五五、五八、六〇、六一、六五、七八ないし九八、一一〇、一一一、一一五、一二八、一三一、一三三、一三四、一三六、一三七、一四〇、一四五ないし一五一、一五六ないし一六二、一六五、一六六、一七一、ないし一八二、二〇五、二一三、二二一ないし二四三

〈2〉 三三、四六、七〇、八五ないし八八、二三三

2  損害

原告は、前記の小山らの違法な本件処分により社会的信用を失墜したうえに、経営上の混乱を生じたために多大な精神的苦痛を被った。右苦痛を慰籍するには、一〇〇万円を下ることはない。

第三争点に対する判断

一  本件処分の手続的違法性について

1  本件強制調査の経過

証拠(乙一、証人福島清、同崔昌植、同李学哲)によると、以下の事実が認められる。

(一) 大阪国税局収税官吏(統括国税査察官)小山和男は、昭和五九年五月二三日午前九時頃、本件許可状を所持して福島清ほか七、八名の査察官とともにサンエイセンターに到着した。福島は、サンエイセンターのマネージャー太田次生に対して身分証明書を示したうえ、本件許可状を提示してその記載内容を説明し、同人の立会を求めてその承諾を得たので、午前九時二〇分頃から同人の立会のもとに一階店舗の臨検捜索を開始した。

福島は、午前九時三〇分頃、二階事務所において出勤してきた事務員松本巻子に対して身分証明書を示したうえ、本件許可状を提示してその記載内容を説明して立会を求めてその承諾を得たので、同人の立会のもとに二階事務所の臨検捜索を開始した。査察官らは、午前九時四五分頃一階店舗の捜索を終えて差押物件を二階事務所に搬入した。

(二) サンエイセンターの総務部長崔昌植は、午前一〇時頃二階事務所に出勤して来たが、臨検捜索を見て、「何しとるんや。やめんか。」と興奮した状態で怒鳴ったので、査察官らは、臨検捜索をいったん中断した。

福島は、二階事務所にある社長室において、崔昌植に対して本件許可状を呈示し、その記載内容を説明して立ち会うように説得した。しかし、崔昌植は、「自分は、店内のトラブルや従業員の監督しか任されていないので、税務署の立会いはできない。社長が来るまで待ってくれ。」と言って立会を拒否した。

(三) 午前一〇時二五分頃、在日朝鮮人尼崎東商工会会長の李学哲が、社長の代理と言って二階事務所に入室して来た。

小山は、社長を崔種楽と理解したので、尼崎市長洲本通三丁目七番地の同人宅で臨検捜索をしている査察官と電話連絡を取ったところ、崔種楽が午後一時頃にサイエンセンターに金庫の鍵を持って行く旨の連絡が入ったので、同人の到着まで待機することになった。

午前一一時三〇分頃、伊丹商工会副理事長千と称する男が査察官の出入禁止の制止を振り切って二階事務所に入室した。小山及び福島は、李、千らとともに社長室で待機していた。

(四) 崔種楽は、午後一時を過ぎても来なかった。小山は、その頃、商工会員と思料される者(以下「商工会関係者」という)がサンエイセンターの駐車場辺りや、店舗内等に集結している旨の連絡を受けた。小山は、この状況では崔種楽の立会を得るのは困難と判断し、大阪国税局査察部を通じて立会の警察官の派遣及び警備を要請した。

午後二時四〇分頃、川西警察署から立会の村上巡査部長と警察官一名が到着した。小山は、再度崔昌植に対して立会の意思の有無を確認するために同人を捜した。ところが、崔昌植や商工会関係者の約二〇名は、査察官の制止を振り切って二階事務所及び社長室に入り、小山ら査察官や警察官を取り囲んで壁に押しやったり、また、暴言を吐くなどして騒然とした状況となった。

(五) 小山は、捜索差押により収集した証拠物件の散逸を恐れ、午後三時一〇分頃、川西警察署に警備要請を行い、間もなく同署の大橋警備課長が警察官約一〇名を連れて到着し、喧騒な状態がやや鎮静化した。小山は、午後三時二〇分頃崔昌植に対し、立会を拒否するのであれば警察官の立会援助を求めて捜索差押を再開することを伝えたところ、同人から崔種楽が午後四時頃来るから待つように求められた。小山は、崔種楽に電話で確認したところ、同人から午後四時頃到着する旨の返答を得たので捜査の再開を待った。

しかし、崔種楽は、午後四時を過ぎても到着しなかった。尼崎商工会の権と称する男は、午後四時一〇分頃社長室に入室し、「崔社長の車は遅れている。社長は必ず来るから、もう少し待ってくれ。」と申し出た。

(六) 崔種楽は、午後四時三〇分頃商工会関係者四、五人と社長室に入室してきた。小山は、商工会関係者の退出を要求したところ、しばらく押問答が続いたが、商工会関係者は、社長室から退出した。福島は、崔種楽に対して身分証明書を示したうえ、本件許可状を呈示してその記載内容を説明した。崔種楽は、本件許可状を手に取り、ボールペンを逆にして一字毎に文字をたどって熟読した後、コピーを求めたが拒否されたのでノートに本件許可状を書き写そうとし、本件許可状を福島から取り上げようとしたために、福島との間で本件許可状の取り合いの状態となったが、福島は、査察官松田勝の加勢により本件許可状を取り戻した。

(七) 小山は、崔種楽が立会に応じる気配を全くみせなかったことから、午後四時四七分、同人に対し、「あなたが立ち会わなければ、警察官立会のもとで臨検捜査を再開する。」旨告げたが、同人から立会の承諾を得られなかったので、村上巡査部長に対して捜索の立会を、大橋警備課長に対して警備援助を要請した。警察官らは、事務室内にいた商工会関係者らを排除した。福島は、村上巡査部長ほか一名の立会警察官に本件許可状を呈示して立会を求め、社長室の臨検捜索を再開した。崔種楽及び崔昌植は、その場に同室していた。小山は、崔種楽に対して社長室にある金庫の開扉を求めたが、同人は、これに応じず、午後五時頃社長室を出たまま戻って来なかった。小山は、午後五時一〇分頃、待機していた鍵屋に対して金庫を破壊しない方法で開扉するように指示した。

(八) 崔種楽は、午後五時二〇分頃川西譲弁護士を伴って社長室に入室した。川西弁護士は、小山に対し本件許可状の呈示を要求した。小山は、川西弁護士に、崔種楽に対して既に本件許可状を呈示済みである旨伝え、その申出を拒絶し、しばらくやり取りがあった後、川西弁護士は退出した。

一方、小山は、崔種楽に対して再度金庫の開扉を要求したが、同人から「勝手に開けたらよい。」と言われて差押を妨害されそうになったので、同人を退出させた。

(九) 鍵屋は、小山の指示に従い、ダイヤル操作で大金庫二個を開扉したが、小金庫を開扉できなかった。小山は、鍵屋に小金庫をドリルを使用して開扉するよう指示し、午後六時二三分頃までに大小計三個の金庫が開扉された。小山らは、各金庫内の収納物を検討して、差押物件と現在高確認物件とに区分のうえ差押処分に取りかかるとともに、現在高確認物件の複写のためにコピー機を社長室へ搬入した。

崔種楽は、午後六時四五分頃小山に対して「何をコピーするのか明らかにせよ。」と尋ねた。小山は、「預金通帳等は、差押えずに現在高確認処分に止めるので、謄写する。」旨説明したが、崔種楽の承諾を得られなかったので、謄写を中止させ、手書によって現在高確認書を作成することとし、一部の物件についてのみ差押処分をした。

(十) 福島らは、警察官の立会のもとに二階事務所内の臨検捜索を継続していたが、廊下においては、騒々しい状況が続き、捜索範囲は、二階事務所の事務室と社長室に限定せざるを得なかった。

小山は、午後七時二〇分頃立会の警察官に差押物件を確認させた後、立会の警察官から署名押印を受け、午後七時三五分頃差押手続を終了した。そして、差押目録謄本一部を立会の警察官に交付するとともに、同目録謄本一部を社長室の応接セットテーブル上に置いた。

査察官らは、午後七時四〇分頃サンエイセンターから退去した。

2  本件許可状の不呈示及び立会人の不存在の主張について

国犯法上の強制調査を行う場合には、刑事訴訟法一一〇条の規定に準じ、調査を受ける者に対して許可状を呈示すべきものと解される。そして、調査を受ける者が法人やこれに準じる団体の場合には、その代表者に提示すべきであるが、代表者が強制調査の現場に不在のときは、当該現場を代表者に代わって管理する責任者(原則として当該現場に居合わせた職員の中の最上席者である。)に呈示し、右責任者が閲続を拒否した場合や不在の場合には、立会人に呈示すれば足りる。そして、国犯法六条一項によると、立会人は、捜査場所の事務員、雇人をもって足りる。

これを本件について見るに、前記認定のとおり、福島は、調査現場のサンエイセンターにおいてマネージャーである太田次生に対して本件許可状を呈示してその記載内容を説明したうえ、同人立会のもとに一階店舗内の臨検捜索をし、続いて、事務員松本巻子に対しても本件許可状を呈示してその記載内容を説明したうえ、同女の立会のもとに二階事務所の臨検捜索を行ったこと、福島は、その後出勤した上席者の崔昌植に対して本件許可状を呈示して記載内容を説明して立会を求めたが、同人は閲続を拒否したこと、小山は、その後現れた崔種楽をサンエイセンターの実質的な経営者と考えて同人に対して本件許可状を呈示したところ、同人は、閲続したものの、立会を拒否したこと、小山は、時間も経過していたので、やむをえず、国犯法六条二項に基づき警察官に立会を求め、福島に立会の警察官に対して本件許可状を呈示させ、その立会により臨検捜索を続行したことが認められる。

したがって、本件強制調査は、本件許可状の呈示、立会について何ら違法な点はない。

ところで、原告は、差押の現場に臨み、小山らに立会を求めたにもかかわらず、これを拒否されたと主張し、右主張に沿う証人李学哲、同崔種楽及び原告の各供述が存在する。しかしながら、本件全証拠によるも、崔種楽が二階事務所に入る際や福島から本件許可状を提出された際に、原告が経営者であるから、原告を入室させ、本件許可状を提示するように求めた形跡は認められず、したがって、右各供述は、採用しえない。

二  本件処分の実質的違法性

1  本件許可状発布に至る経過

証拠(乙二ないし八号証、二三六号証の一、二、証人福島清及び同高橋直幸)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。

(一) 大阪国税局査察部は、昭和五九年五月頃、訴外会社に対して次のような法人税法違反の嫌疑を持った。

(1) 訴外会社は、昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度において、株式会社長谷川工務店から開発に関連する営業補償金等として約五億九〇〇〇万円の収入を得ていたが、右事業年度の決算において、雑損失、固定資産除却損及び支払利息の計上をした決算書を作成し、これに基づき所得金額を記載して確定申告を行った。

(2) 事前調査により、右約五億九〇〇〇万円のうち、三億一一九五万一八四八円がサンエイセンターの敷地及び建物の購入資金に、その残余がサンエイセンターの改装業者である岡田建設工業株式会社への支払に充てられていることが判明したが、一部の資金の流れや使途については、なお未解明の状況にあった。

(3) そこで、訴外会社において、右事業年度の法人税確定申告に当たり、架空の雑損失等の計上をし、過少な所得金額を記載した申告書を提出した疑いを持つに至った。

(4) そして、事前調査により、訴外会社、サンエイセンター及び株式会社オーリヨン商事(以下「オーリヨン」という)の三者は、原告の夫崔種楽を実質的経営者とする同族関係にあると認め、右約五億九〇〇〇万円の金員の流れを解明するに必要な証拠がサンエイセンターに存在する高度の蓋然性があると判断した。

(二) 以上の嫌疑に基づき、大阪国税局査察部管理課高橋直幸は、昭和五九年五月二一日頃大阪地方裁判所に対して臨検、捜索、差押、許可状の発布を申請し、次のような内容の本件許可状の発布を得た。

(1) 嫌疑事実

犯則嫌疑者株式会社富士砕石は、宝塚市川面字長尾山一五番地の一五〇に本店を置き、砕石業を目的とされた法人であるが、実際は申告額を上回る所得があったにもかかわらず、所轄西宮税務署長に対し、左記のとおり過少な所得金額を記載した法人税確定申告書を提出し、もって、不正な行為により法人税を免れた疑いがある。

事業年度 昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日

申告年月日 昭和五八年五月三一日

申告額 所得金額 一五、八九八(単位千円)

税額 五、七一七

(2) 差押えるべき物件

昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日までの間の本件犯則事実を証明するに足りると認められる

総勘定元帳、補助元帳、金銭出納帳、銀行勘定帳、手形記入帳、仕入帳、売上帳、経費帳、固定資産台帳、給与台帳、株券台帳、入出金伝票、振替伝票、収入金計算書、納品書、請求書、領収証、使用済手形小切手、決算関係書類、不動産売買契約書、同賃貸借契約書、不動産売買及び賃貸借に関する公正証書、約定書、同関係書類、金銭貸借に関する公正証書、約定書、同関係書類、不動産及び商業登記関係書類、訴訟関係書類、示談書、その他取引に関する契約書・念書・メモ、名刺、ノート、手帳、住所録、取引先名簿、写真、テープ、鍵、印鑑、ゴム印、往復文書、不正計算に関係ありと認められる預貯金通帳、同証書、有価証券、預貯金の入出金及び有価証券の売買に関する書類、不動産建築関係書類、パスポート

2  原告と訴外会社の本件嫌疑事実との関連性について

証拠(乙二、三、六ないし八、証人高橋)によると、訴外会社は、代表取締役が原告の夫崔種楽の父崔性植、取締役が崔種楽、監査役が原告であること、オーリヨンは、代表取締役が崔種楽、取締役が原告であり、本店所在地がサンエイセンターの所在地と同じ場所にあること、訴外会社の第一勧業銀行三宮支店の普通預金から個人名義の預金口座に金銭が移動されたうえ、右金銭がオーリヨンの取得した川西市久代二丁目七九番の一の土地と建物(サンエイセンター)の資金に当てられるとともにサンエイセンターの改装資金にも当てられたこと、オーリヨン所有物件であるサンエイセンターを原告が使用していることが認められる。

以上認定した事実によると、訴外会社、オーリヨン及び原告は、崔種楽を介して人的、物的、資金的に密接な関係があることが認められる。

そうすると、訴外会社が株式会社長谷川工務店から取得した約五億九〇〇〇万円の流れの全容を把握して本件嫌疑事実を解明するためには、訴外会社からサンエイセンターに対して資金が流入しているか否かを明らかにする必要がある。そして、右目的達成のためには、サンエイセンターに存在する訴外会社の書類及び訴外会社の営業その他の諸活動に関係する書類に限らず、前記事業年度から本件強制調査着手日までのサイエンセンターにおける営業状況、財産状況が判明する一切の資料に基づいて前記事業年度から本件強制調査時点までのサイエイセンターにおける損益の発生、資産の増減を把握してその営業内容を明らかにする必要があると言わなければならない。本件許可状も、この趣旨で「差押えるべき物件」を掲げたものと解される。

以上によると、本件強制調査は、原告は本件嫌疑事実に関連性を有するものと認められ、その点で違法はない。そうすると、本件強制調査は、訴外会社の犯則事実調査の目的でなされたものであり、原告が主張するように、原告の所得調査や崔種楽に対する政治的弾圧を目的としてなされたものと認めることはできない。

3  任意調査の欠如について

確かに、国犯法上の強制調査は、私人の基本的人権を侵害する危険性が大きいから、任意調査によって犯則事件を告発するための証拠の発見、収集という調査の目的を達することができる場合には、原則として任意調査を行うべきである。

しかしながら、国犯法には、臨検、捜索又は差押の強制調査を実施するに当たり、質問検査等の任意調査を経由することが必要であるとの特段の定めはないから、任意調査か強制調査かの選択は、収税官吏が当該事件の性質等に照らして行う合理的裁量に委ねられているものと解すべきものである。

そして、一般に、租税ほ脱事件において同族関係者が介在する場合には、その同族関係者相互間において真実の取引を仮装、隠蔽することがしばしば行われがちであり、しかも、これら同族関係者が必要とする資料の収集を目的とする任意調査に応じるとは考え難く、場合によっては、隠蔽行為に出ることも十分予測されるところである。

本件について見るに、原告に対して原則に従って先ず任意調査をする方が妥当であったと言えるものの訴外会社と原告とが同族関係にある以上、大阪国税局の査察官が任意調査によっては証拠の収集が不可能と判断し、直ちに原告に対して強制調査をしたことが合理的な裁量の範囲を逸脱したとまでは言えず、結局、本件強制調査が違法とは言えない。

4  被差押物件の関連性の不存在

(一) 本件許可状に記載された「犯則事実を証明するに足りると認められる」物件とは、犯則事実を証明するに足りることが一見明白な物件に限る趣旨ではなく、犯則事実を直接、間接に証明するに足りる可能性があると判断される物件を含む趣旨と解するのが相当であり、この場合、当該物件は犯則事実と関連性を有すると言うことができる。

もっとも、調査の途中の段階においては、ある物件がどの程度の関連性を有するかが明確でないことが多く、調査の進展により収集した証拠資料の対照、検討により次第に関連性の有無が明らかになってゆくのが通常である。また、差押の現場において、個々の物件について関連性の有無を的確に判断して取捨選択することは相当困難であり、差押後の点検によって関連性が明らかになることが多い。

したがって、差押時点において、差押対象物件の一々についてその内容を検討し、関連性の有無を判断することは不可能というべきであり、収税官吏が同種事件の調査等によって蓄積して有する専門的知識、経験等に基づく合理的な判断により、犯則事実と差押対象物件との関連性の有無を判断することによってなされるほかない。

以上によると、差押時点における関連性の有無の判断は、犯則事実との関連性を有する可能性がある程度の蓋然性をもって存在するか否かの判断によってなされるべきものと解するのが相当である。

(二) 本件について見るに、証人福島の証言によると、差押に着手した各査察官が差押予定の物件を取捨選択しながら段ボールの箱に入れ、その後内容物を確認しながらラベルを貼って標題と数量を書き、番号を付したうえ差押目録を作成し、最終的に、福島が立会人に差押物件を示して差押目録の読み合わせをしながら点検したことが認められる。したがって、本件強制調査においては、差押物が関連性を有するか否かについて蓋然性判断が一応なされているものと言える。

(三) もっとも、本件差押物件の中には、関連性について疑問の余地のある物件が含まれていなくもない。

しかしながら、前記のように、本件強制調査は、午前九時頃着手されたものの、サンエイセンターの責任者と見られる崔昌植の立会拒否、商工会関係者らや原告の夫による妨害行為等のために長時間中断し、ようやく午後四時五〇分頃再開されるという状況下で行われたことが認められる。

ところで、関連性の判断は、その場の状況に応じて可能な限度においてなせば足りるというべきであるから、右のような状況のもとでは、差押物件と嫌疑との事実との関連性の判断が通常の場合よりも正確性、厳密性において欠け、その結果、右のように関連性に疑問がある物件が含まれるに至ったとしても、本件強制調査がそれにより全体として違法となるものではないと解される。

三  以上によると、原告の請求は、理由がない。

(裁判官 村岡泰行)

物件目録

(いずれも兵庫県川西市久代二の七九の一、サンエーセンターに所在したもの)

(差押番号) (品名又は名称) (数量又は個数)

一   名刺ホルダー 一綴

二   商品取引と表題のファイル 一綴

三   御見積書 一綴

四   見積書(袋共) 二綴

五   名刺ホルダー 二綴

六   御見積書 三綴

七   領収書等(ファイル共) 一束

八   名刺 一束

九   不動産売買契約証書等 一綴

一〇  景品表 一六綴

一一  景品表控(バインダー共) 一綴

一二  袋入り封書 一袋

一三  近畿相互/三宮からの郵便物(袋入り) 一袋

一四  納品書・請求書等 一綴

一五  銀行からの書類 一綴

一六  サンエーセンターと表記のノート 一冊

一七  日記帳オール建設と表記のノート 一冊

一八  無表題ノート 一冊

一九  領収証 一冊

二〇  ノート 一綴

二一  五九年度と表示の綴 一綴

二二  図面 一枚

二三  フジテック営業報告書等(袋共) 一袋

二四  カタログ 一袋

二五  受領書等 一袋

二六  テレホンリスト 一個

二七  久代会館と表記のノート 一綴

二八  電話連絡簿 一冊

二九  無表題の大学ノート 三冊

三〇  雑書(袋共) 一綴

三一  手帳 一冊

三二  鈴蘭台山林裁判資料 一綴

三三  再入国許可証等 一綴

三四  無表題の大学ノート 一冊

三五  罫紙メモ 一枚

三六  不動産売買契約証書等(袋入) 一綴

三七  電話番号表(ケース共) 一個

三八  青色のフィラノート 一綴

三九  消防用設備等設置届出書等 一綴

四〇  黄色のファイル 一綴

四一  見積書等 一綴

四二  雑綴 一綴

四三  見積書等 一綴

四四  見積書 一綴

四五  見積書等(はさみ込み書類とも) 一綴

四六  留学関係書類等(袋共) 一袋

四七  物品出納帳(ファイル共) 一綴

四八  仕入帳(楽)(ファイル共) 一綴

四九  住所録 一綴

五〇  名刺ホルダー 二綴

五一  電算打出し出玉率表 一綴

五二  黒表紙ノート 一冊

五三  玉数等の小票等 一綴

五四  フィーバー終了台統計等 一綴

五五  チラシ折込一覧票 二枚

五六  黒表紙フリーダムノート 一冊

五七  集計用紙 一冊

五八  広告関係ファイル 一綴

五九  電算打出し出玉率表 一綴

六〇  一般終了台統計等 一綴

六一  集計用紙 一冊

六二  堀工務店御見積書(袋入) 一綴

六三  ハンディノート(同封書類とも) 一冊

六四  銀行取引書類綴 一綴

六五  名刺 一束

六六  ケース入り書類 1ケース

六七  ケース入り書類 1ケース

六八  ポケットノート 一綴

六九  小ノート 一冊

七〇  メモ帳 一冊

七一  袋入印鑑 二個

七二  メモ帳 一冊

七三  一勧/三宮財形預金預入依頼書 一綴

七四  書簡 一束

七五  メモ書のある銀行からの空封筒 五袋

七六  破棄メモ 一袋

七七  空封筒 二袋

七八  集計表(黒表紙共) 一綴

七九  集計用紙 二冊

八〇  統計表(黒バインダー共) 一綴

八一  紙ケース入り書類 1ケース

八二  ファイルフォーウィーク(内容物共) 一個

八三  名刺 一束

八四  メモ 三枚

八五  フィルム(袋共) 一袋

八六  袋入り写真 一袋

八七  アルバムブック 一冊

八八  アルバム 八冊

八九  手帳 二冊

九〇  メモ帳 三冊

九一  葉書綴 三冊

九二  空封筒 一束

九三  名刺綴 二冊

九四  卓上日誌 一個

九五  計算書 二枚

九六  見積書 一枚

九七  御見積書 一綴

九八  図面等(袋入) 一袋

九九  メモ帳 八冊

一〇〇 振込金受入票 一綴

一〇一 訴訟関係写 一綴

一〇二 パチスロコイン両替一覧等(ケース共) 一個

一〇三 宅地資料等(袋入) 一枚

一〇四 出金伝票 一綴

一〇五 メモ書名刺 一枚

一〇六 名刺 二枚

一〇七 来信書簡等 一束

一〇八 請求書等 一綴

一〇九 袋 一綴

一〇〇 警備報告書(ファイル共) 一綴

一一一 クリーニング伝票等 二綴

一一二 黒茶表紙ノート 一冊

一一三 納品書等 二綴

一一四 領収書等(袋入) 一綴

一一五 景品票 一綴

一一六 領収証等(袋共) 一袋

一一七 たばこ納品書 一綴

一一八 領収証等 一綴

一一九 売上伝票等 一袋

一二〇 朝銀帯封 一綴

一二一 電話メモ 一綴

一二二 雑書 一袋

一二三 銀行空袋 六袋

一二四 領収書・請求書等 一綴

一二五 出金伝票等 四綴

一二六 雑書 二綴

一二七 電話メモ 一綴

一二八 履歴書 二束

一二九 仕入台帳(五八年度)と表記の袋に入ったノート 一綴

一三〇 入出金伝票 一〇綴

一三一 五八年度パチンコメモ等 一袋

一三二 雑書 一綴

一三三 五八・一~金銭出納帳 一冊

一三四 出勤表等 二束

一三五 領収証等 一綴

一三六 テレフォンリスト 一冊

一三七 差玉計算書綴 一綴

一三八 領収証・請求書等 三九綴

一三九 遊技機登録証明書(ファイル共) 一綴

一四〇 兵遊協と題する綴 一綴

一四一 業務・企画契約書等 一綴

一四二 賃貸借契約書等 一綴

一四三 売買契約書等(ビニールファイル) 四綴

一四四 遊技機認定申請書(写)等 一綴

一四五 客数平均・割数グラフ表 一綴

一四六 名刺 一束

一四七 景品追加表 一綴

一四八 葉書 一束

一四九 空封筒 一束

一五〇 機器取扱説明書 二部

一五一 景品表 一枚

一五二 五九年支払書等 一綴

一五三 食品雑貨・タバコ記入帳 一綴

一五四 給料台帳 三綴

一五五 納品書・領収証等 一綴

一五六 五月一九日付パチンコ台総合レシート 一綴

一五七 パチンコ換算表等 一綴

一五八 風俗営業許可申請書等 一綴

一五九 住所一覧表等 一綴

一六〇 履歴書綴 一綴

一六一 出勤表控 一綴

一六二 西宮土木工学科事務所許可(ファイル共) 一綴

一六三 連絡帳 一綴

一六四 見積書等 一綴

一六五 承認申請書等 一綴

一六六 娯楽施設利用税領収証書等 一綴

一六七 土地賃貸借契約書等(ファイル共) 二綴

一六八 減価償却費の計算等 二綴

一六九 満期のご案内等 一束

一七〇 換金控 一綴

一七一 電気料金ノート 一冊

一七二 パチンコ両替数一覧等 二枚

一七三 前貸帳 一冊

一七四 領収証等(袋共) 八袋

一七五 食道出金伝票 一綴

一七六 来信賀状等 一束

一七七 カタログ等(ファイル共) 一束

一七八 カタログ等(袋共) 一袋

一七九 カタログ(袋共) 一袋

一八〇 御見積書等(ファイル共) 一綴

一八一 カタログ等 一綴

一八二 年賀状名簿 一冊

一八三 仕入帳 一綴

一八四 奥覚書(ファイル共) 一綴

一八五 連絡帳(ファイル共) 一綴

一八六 定款・議事録等ファイル(株)オーリヨン商事 一綴

一八七 議事録ファイル 一綴

一八八 法人登記簿謄本ファイル 一綴

一八九 (株)東明商事申告書控 一綴

一九〇 借用証書ファイル 一綴

一九一 印章(紙袋入) 三個

一九二 公正証書謄本(袋入) 一通

一九三 確認通知書等(久代ホール) 一綴

一九四 不動産売買契約証書等綴 一綴

一九五 登記簿謄本綴 一綴

一九六 公正證書 一通

一九七 印鑑登録証明書等 一束

一九八 登記済権利証等(株)オーリヨン商事 一袋

一九九 当座勘定照合表 一綴

二〇〇 定款議事録ファイル 一綴

二〇一 手帳(ビニール袋入) 一八冊

二〇二 賃貸借契約証書等ファイル 一綴

二〇三 手形受払帳 一冊

二〇四 銀行勘定帳 一冊

二〇五 川西保健所許可証(袋入) 一袋

二〇六 金銭消費賃貸借契約証書 一枚

二〇七 仮領収証(封筒入) 一枚

二〇八 担保品預かり証(袋入) 一枚

二〇九 小切手帳半片 六冊

二一〇 約束手形半片 二冊

二一一 借用証(封筒入) 一枚

二一二 ポートビル建築計算書(封筒入) 一袋

二一三 保険料領収証 四枚

二一四 借用証(封筒入) 一枚

二一五 外国文書(封筒入) 二通

二一六 借用証書(封筒入) 一通

二一七 崔英鎬名義 朝銀兵信/尼崎 定期預金通帳 一冊

二一八 崔種楽名義 朝銀/尼崎 総合口座通帳 一冊

二一九 朝銀総合口座通帳 崔種楽名義 一冊

二二〇 宗基洛名義 朝銀/三宮 総合口座通帳 一冊

二二一 関西明販(株)からの封書 一通

二二二 品質保証書 一枚

二二三 給料袋 二袋

二二四 タイム・カード 一袋

二二五 請求書・領収証 一綴

二二六 メモ 一綴

二二七 メモ帳 一冊

二二八 喫茶売上伝票 二束

二二九 給料袋入り計算書等 一袋

二三〇 袋入り給料明細書 一袋

二三一 袋入 領収証・請求書等 一袋

二三二 メモ書き 一枚

二三三 ビニール袋入り 宝石保証証書 一冊

二三四 金銭出納帳 一冊

二三五 賛助帳 一冊

二三六 仕入帳 一冊

二三七 紙ケース入り保証書 二ケース

二三八 メモ 一枚

二三九 帯封 五枚

二四〇 空封筒 二袋

二四一 領収証等 一綴

二四二 保険証券(ビニール袋内) 四通

二四三 メモ 一枚

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